煎じ薬のすすめ

日本東洋医学会会員の先生方へ

生薬を煎じて飲むという行為は、かつては日本の医療の主流でした。しかし、明治の医制改革により西洋医学が医療の中心に位置付けられると、漢方は急速に衰退し、医療の表舞台から姿を消しました。戦後、漢方はエキス剤という新たな剤形を開発し、国民皆保険制度のもと、再び国民医療の中に浸透していきました。そして現在では、多くの医師が日常診療で当然のことのように漢方エキス剤を用いるようになりましたが、本来の剤形である煎じ薬による生薬治療はほとんど行われていません。

日本東洋医学会では、田原英一会長の下、煎じ薬(生薬)治療の普及を活動目標の一つに掲げています。そして、関東甲信越支部でも専門医スキルアップワーキンググループを立ち上げ、保険医療の立場から、煎じ薬治療の普及活動を展開しています。具体的な活動としては、『漢方の臨床』という漢方専門誌に、本年8月号から「煎じ薬のすすめ」と題した連載を開始しました。定期購読するには東亜医学協会の会員登録が必要ですが、是非ともご一読いただければ幸いです。

関東甲信越支部専門医スキルアップワーキンググループ
新井 信
m.arai@marianna-u.ac.jp

煎じ薬のすすめ(1)

エキス剤から煎じ薬に変えて基礎体温が二相性になった症例
日本東洋医学会関東甲信越支部専門医スキルアップワーキンググループ
○新井 信、並木 隆雄、中田 佳延、小暮 敏明、上野 眞二、吉野 鉄大

要旨
妊娠を希望した48歳の女性に対し、当帰芍薬散エキス、ブシ末、大黄末から、煎じ薬で当帰芍薬散料加附子大黄に変えたところ、結果的には妊娠できなかったが、基礎体温と冷えが顕著に改善し、閉経近くまで2年以上もよい状態が維持できた症例である。漢方エキス剤では無効な場合でも、煎じ薬にすると有効な場合がある。

漢方の臨床 72(8): 841-844, 2025

また、同雑誌7月号に「保険診療による生薬治療の実際~オンライン服薬指導の提案~」(漢方の臨床 72(7):737-742, 2025)も掲載されていますので、煎じ薬(生薬)治療の参考にしてください。